この授業では、文字通り西洋由来の魔法について学んでいきます。
本来であれば、新学期にこの科目を担当する先生に講義をしていただくところですが、今回は私、魔法処web責任者兼校長代理、白川柚(しろかわ ゆず)が代理として、担当させていただきます。
魔法の力とは不思議なもので、その資格を持つものは、自覚せずとも力をその身に宿し、時として、無意識のうちに超常現象を引き起こすものです。それ故に、就学前の子供たちや、秘密裏に育てられ、迫害された魔法使いたちは、力を爆発させ、大きな事故を起こすことがあるのです。
魔法の力は、我々人間の身体で操ることは難しく、熟練された魔法使いでも、自分の力だけで完全に制御することはできません。だからこそ、魔法使いたちは、自分の力を効率的に発揮するために、媒体を使うことにしたのです。
西洋における媒体の代表例が、魔法使いのステレオタイプ的なイメージの中によく登場する杖です。杖とは、芯に魔法生物の一部が使われており、特殊な技能を持つ職人によって加工された、非常に魔法行使に対して効率的な魔法具です。現在よく知られる形の杖が使用される以前にも、魔法使いたちはその他の媒体(芯を持たない原始の杖や鉱石など)を使用していましたが、どの媒体も現在の杖ほど効率的に魔法の力を制御することはできませんでした。そのため、古来の魔法使いたちは、魔法具の他に、自然のもつ力を利用していました。現代でも残っている自然に宿る魔法の力の中でも最も有名なものが、月の満ち欠けです。古くから狼男たちは満月の持つ不思議な力でその姿を人から狼へと変えてきました。
西洋のハロウィンに魔女たちの大規模な集会、サバトが行われていたのも、自然の力に由来しています。古代のケルト人は、1年を夏と冬のニ季として捉え、夏の終わり…つまり、1年の終わりを10月31日と定めました。古代の世界において、妖精たちをはじめとする魔法生物(悪霊を含む)と魔法使いたちの距離は、今よりもずっと近く、魔法使いたちは、彼らと暦を共有し、共に1年の終わりを祝っていました。現代の魔法界においては軽視されがちですが、魔法生物には強力な魔法の力を持っています。そのため、彼らが活発になるハロウィンの日(当時はサムハインと呼ばれていた)には、世界に魔力が満ち、魔法使いはもちろん、非魔法族の人間さえも、「おまじない」という形で一種の魔法を使うことができたのです。今回は体験授業ですので、具体的な魔法の行使についての講義は行いませんが、その代わりに非魔法族がその当時実際に行っていた「おまじない」を紹介します。
麻の実占い
ハロウィーンの深夜、麻の実を一掴み持って、ひとりで畑または庭へ行き、以下の言葉を唱えながら、右肩ごしに麻の実を蒔きます。
Hemp seed, I saw thee
麻の実よ、私はあなたが見える
Hemp seed, I saw thee
麻の実よ、私はあなたが見える
And him(or her) that is to be my true love
私の真に愛すべき彼(または彼女)よ
Come after me and draw you
姿を見せておくれ
麻の実よ、私はあなたが見える
Hemp seed, I saw thee
麻の実よ、私はあなたが見える
And him(or her) that is to be my true love
私の真に愛すべき彼(または彼女)よ
Come after me and draw you
姿を見せておくれ
(白川意訳)
呪文については諸説ありますが、内容としてはどれも同じです。ちゃんとした呪文ではありませんので、内容が伝わればよかったのかもしれませんね。このおまじないがうまくいけば、非魔法族でも、背後に自分の将来の夫や妻の姿が見えた、ということです。
リンゴの皮占い
ハロウィンの夜、ひとつながりで、一度も切れることなくリンゴの皮をむき、それを左肩越しに投げます。すると、地面に落ちたリンゴの皮が文字(アルファベット)の形になり、その文字が真実の愛の相手のイニシャルであるとされています。
これらの「おまじない」の内容は、「西洋魔法学」というよりも、「占い学」に限りなく近いものではありますが、非魔法族の間で流行ったこれらのまじないは、西洋東洋問わず、己の中に眠る魔法の力を見るのにとても便利で、手間のかからない方法です。だからといって、占い学が簡単か、といえば、そういうわけではありません。西洋における世紀の予見者、カッサンドラ・トレローニーほどの才能を持つものがこれまで現れていないことからもわかるように、占い学は、練習すれば出来るものではなく、かなりの向き不向きがあります。ですので、今回紹介した「おまじない」はかなり単純なものではありますが、成功しなかったからといって、落ち込む必要はありません。
魔法の力を自在に操るためには、由来や、効率的なメソッド等を体系的に学ぶ必要があります。世界で活躍する魔法使いたちも、現在魔法処で活躍する先生方も、誰もが最初は学生でした。偉大にな魔法使いになるためには、「謙虚」であることが一番重要だと私は考えています。常に学ぶ姿勢を崩さず、これからも努力し続ければあなたの未来はきっと開けるはずです。新学期、西洋魔法学を担当する先生はまた別になると思いますが、少しでも西洋魔法学に興味を持ってもらえたなら嬉しいです。
以上で今回の体験授業を終わります。
それでは、また次回の体験授業でお会いしましょう。
第1回は、魔法処web責任者兼校長代理、白川柚が担当しました。
(こちらのサイトで掲載している情報はあくまで創作であり実際の歴史、人物、作品とは一切関係ありません)
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